ニュース

【李卓】 NFL挑戦への歩み

2021年04月28日(水) 20:00

李卓、NFL挑戦の軌跡
オービックシーガルズのRB李卓が米プロアメリカンフットボールリーグNFLのIPP(International Player Pathway)プログラムの候補生に日本人として初めて選ばれたのは昨年12月末だった。

その後、今年1月下旬から10週間にわたり、フロリダ州ブランデントンのIMG施設で候補生を対象にしたトレーニングプログラムに参加。最終的なIPP参加選手はアメリカ時間4月29日から3日間かけて行われるNFLドラフト(オハイオ州クリーブランド)が終了次第、決定することになっており、その後、IPPプログラムに選ばれた選手のチームへのアロケーション(派遣)が決まるため、現在、李はそれらの結果連絡を待つ身だ。

「どこかのチームにアロケーションされることが前提で、(トレーニング中は)自分がロースターにどうやったら残れるのかという気持ちで過ごしてきた」と李は言う。「キャンプではまずはキッキングでバリューを見せて、とにかくチームのロースターに残れるように自分の価値を出していく」といかにして自らの価値をNFLでアピールするかのビジョンも明確だ。

前人未到の日本人NFL選手誕生に向けて、李の挑戦はクライマックスを迎えようとしている。

ランディ・モスに魅せられてアメフト部入部
IPPプログラムとはNFLが国外から広く有能な人材を発掘するために2017年から始めたもので、イギリスやドイツ、オーストラリアなどの出身の選手を輩出している。NFLにある8つのディビジョンのうち一つが受け入れ先に指定され、そのディビジョンに所属する4チームがIPP選手をキャンプに帯同させる。キャンプでの活躍が目覚ましければアクティブロースターまたはプラクティスロースター入りが認められる。今年どのディビジョンが対象となるかは未発表のままだ。

李にとってNFLはフットボールを始めた頃からいつも憧れの存在だった。小学生の頃に剣道やテニス、サッカーや野球に親しむスポーツ少年だった彼は中学受験を機に一度すべてのスポーツを中断する。そして、進学した南山中学(名古屋)でアメリカンフットボールに出合う。

「何か部活に打ち込みたい」と思っていた李少年がアメフト部の体験入部で見たのがNFLのハイライトビデオだった。ちょうどNFLではペイトリオッツがレギュラーシーズン全勝を達成した直後のことで、ランディ・モスのキャッチが印象的だったそうだ。

中学時代はQBも含めてバックス全般をプレイしていたが、南山高校に進学してからはRBに絞ることになり、現在の李への道筋が作られた。

リーディングラッシャー、そして日本代表へ
李の名前が全国的に知られるようになったのは慶應義塾大学に入ってからだ。3年生時の2016年(971ヤード、13TD)と最終学年の翌年(975ヤード、15TD)は連続で関東大学リーグのリーディングラッシャーになった。2015年にはアメリカで行われた世界選手権に出場するシニア日本代表に学生でただ一人選ばれ、出場した。

ただ、これよりも前に李がアメリカでのフットボールに強く惹かれるきっかけがあった。高校時代にホームステイでアメリカに行く機会があった彼は現地でUCLAとアリゾナ大学の試合を目の当たりにする。それをきっかけにアメリカの大学でフットボールをプレイしたいとも思うようになったそうだ。

しかし、実際には英語力の不安もあって挑戦はしないままに断念する。慶應大学ユニコーンズでスター選手として活躍する一方で、アメリカのカレッジフットボールに挑戦しなかった後悔は彼の心の中で静かに澱(おり)となって溜まっていった。

パイロットになる夢と葛藤
フィールド外での李はもう一つの夢を着実にかなえようとしていた。パイロットである。インターナショナルの幼稚園に通っていた李はその環境からか、「大人になったら世界をフィールドに活躍する職業につきたい」と思うようになっていた。また、子供のころに祖父に航空宇宙博物館に連れていかれた経験もあり、彼にとってパイロットにあこがれるのはごく自然な流れだった。

無事に大手航空会社への就職が決まり、卒業を間近に控えた2017年の2月。李はシアトル・シーホークスの施設で行われたNFLのリージョナルコンバインにエントリーする。この時にアメリカへの挑戦の想いが再燃する。そして、今度はカレッジではなくNFLが目標となった。「たぶんNFLを意識した最初だと思う」と李は振り返る。

就職して地上業務実習が始まってもその思いは消えなかった。いや、むしろパイロットになるための訓練が本格化してしまえばNFLをあきらめなければいけないという思いが焦りとなった。

「入社してからもNFLに挑戦したいという気持ちがすごくあった。自分がフットボールのピークをまだ経験していないのに、(パイロット)訓練が始まったらフットボールを辞めなければいけない。(フットボールの)終わりが見えていることと続けたい気持ちの葛藤があった」と李は言う。その彼を後押ししたのは大学進学前にカレッジフットボールへの挑戦をあきらめたことへの後悔の念だった。「このままフットボールを諦めてパイロットになったらたぶん一生後悔するんだろうな」と思った。

周囲の反対をなかば押し切る形で1年半勤めた会社を辞め、オービックシーガルズでプレイしながら本気でNFLを目指すことにした。ある意味、退路を断って後悔しない道を選んだのだ。

NFLへの挑戦
2019年の春にはNFLのTSL(The Spring League)に参加し、やはりNFLを目指す外国人選手と試合で競った。6月には新プロリーグXFLのトライアウトにも挑戦した。残念ながらXFLのドラフトで指名されることはなかったが、その年の秋にXリーグとカナダのプロリーグCFLとの間にパートナーシップが成立。その一環として昨年2月に行われたCFLのトライアウトに合格し、開催予定だったCFLのグローバルコンバイン(アメリカ、カナダ国籍以外の選手を対象にしたコンバイン)に招待された。

コンバインとそれに続くドラフトは新型コロナウイルスの世界的な感染によって中止となり、CFLのシーズンもキャンセルになって李のプロリーグ挑戦はお預けとなったが、それから1年もたたずにNFLのIPPプログラム候補生に選出された。

着実な前進である。その間に李自身もXリーグで結果を出した。昨年のジャパンXボウルではオービックシーガルズの7年ぶりの優勝に貢献するとともにMVPにも選出された。IPP候補に選ばれた直後のライスボウルでは、試合後に多くのメディアに囲まれNFLへの挑戦を語る李の姿があった。

182センチ、91キロの李が武器とするのは加速とボディバランスだ。それはIPPプログラムのトレーニングを通じてポジションコーチからも評価され、自信を深めたようだ。あとはそれを発揮する機会が与えられるのを待つだけだ。

「NFLへの距離が短くなったという感覚はないが、自分が近づいたような実感はある。精神的にも身体的にも自分の準備が整ったようには思う」と語る李。夢の舞台に立つ用意はできている。

国際活動コーポレートパートナーのご紹介

Xリーグの国際活動は、下記のコーポレートパートナー様にご支援いただいております。