【X Factor】心・技・体で重要なのは心の部分 声援を力に変えるベテランプレーメーカーのメンタリティ
2021年12月08日(水) 18:00リーグ戦を7戦全勝で終え、12日のセミファイナル(ヤンマースタジアム長居)でIBM BIG BLUE(3勝3敗1分け)と対戦するパナソニック インパルス。そのインパルスで最年長選手の一人としてチームを牽引するのがディフェンスバック(DB)辻篤志だ。
かつてチームの主将も務め、日本代表経験も豊富だ。35歳にして一線で活躍するアスリートは、セミファイナルにおけるIBM戦に特別な思いがあるという。
「チームキャプテンをしていた2017年と2018年に(ともに)セミファイナルでIBMに負けたんです。2年連続で悔しい思いをしたので、個人的には同じ場面で絶対にやり返したいという強い気持ちはあります」と辻は言う。
2017年のインパルスは6勝0敗でプレーオフに入り、IBMとのセミファイナルはインパルス有利というのが下馬評だった。しかし、結果は24-31で敗戦。リベンジを誓った翌年も17-24で返討ちにあった。ポストシーズンでIBMと対戦するのはそれ以来だ。
とはいうものの、辻自身にもインパルスにも気負いはない。「内に秘めた思いはもちろんありますけど、いつも通りやるということがすごく重要だと思います。チームとしてもいつも通りに目の前のプレー、目の前の試合、目の前の相手に対して全力でやりきる、決められたことをやりきろうというマインドでいます」
今年のインパルスには6年ぶりの日本一を狙えるだけの手ごたえを感じる一方で、運の強さにも恵まれていると辻は言う。相手がミスをしたり、自分たちが不利な状況におかれても相手に気づかれずに難を逃れたりしたことがあったそうだ。「日本一になっていく上で運は絶対に重要だと思うんですよ」と言って辻はMLBエンジェルスの大谷翔平選手を引き合いに出す。大谷が運を大切にし、運を呼び込むために言動に気をつけているのは有名なエピソードだ。インパルスもただ運が向こうから寄ってくるのを待っているわけではない。チームとして新たな取り組みも行っている。そのひとつが「オープンダイアローグ(開かれた対話)」だ。
チーム帯同2年目となるプロフェッショナル・コーアクティブコーチの石井大介氏の提唱で行っているものだが、選手間のコミュニケーションをとるのに大きく役立っているという。例えば、選手の一人がインパルスに入団したきっかけをテーマに話をする。それに対し、聞いていた周囲のものがレビューをする。最後に話し手がレビューを踏まえたうえでフィードバックをするという手法だ。
「選手間では日本人選手もアメリカ人選手も含めて、普段は近いようでも実はあまり会話ができていないこともあります。(だからこそ)グラウンド外での会話も重要視しています。
心を開くということがとても大事で、対話をすることで『この選手はこういうことを思っていたんだ』とか『こいつ、熱い奴だ』ということが分かって、『この選手のためにもちょっと頑張ろうか』という雰囲気にもつながっていく。選手間でのコミュニケーションの活性化になり、一体感が出てきていると思うんです」
6年前に日本一を経験したチームと今のインパルスを比べると、「若返った」という印象を持つそうだ。今年はワイドレシーバー(WR)ブレナン翼、ランニングバック(RB)立川玄明、ラインバッカー(LB)青根奨太といった新人選手がスターターに定着し、高い評価を受けている。彼らだけでなく、2~3年目の選手が大きな貢献をしている。その若手を辻は「すごい。お手本になる」と評する。
「インパルスの若手は戦力上はもちろん、ひたむきに頑張っていたり、貪欲に取り組んでいたりする姿が参考になるんです。若手が引っ張ってくれて、楽しい雰囲気です。やられたらおとなしくなるんじゃなくて、『やり返すぞ』という声が飛び交う。それって大きなポイントだと思いますね」
もちろん、先輩としての務めも忘れない。「テクニック面や特定の場面でどういう心構えでいるかといったことは聞かれるので、それは個別にアプローチしています。一番気をつけているのは若手がプレーをしやすい環境を整えるということ。こうしろ、ああしろという『ティーチング』ではなく、相手を尊重して導きだす『コーチング』を意識しています」
大阪産業大学でアメフトをはじめてから早くも17年目になる。野球に没頭した高校時代は肩の強さと足の速さで鳴らした辻も35歳になった。それでもフィジカル面は衰えるどころか、インターセプト、パスカット、パントブロックからのリターンタッチダウンと今季もビッグプレーを生んだ。どんなことに気を使って選手生活を送っているのかと尋ねると「メンタルですね」という答えが返ってきた。
「脂質を下げてタンパク質をいっぱいとって筋肉量をちゃんとキープするというのがたぶん模範解答なのでしょうけど、もちろん全く意識してないことはないんですが、大切にしているのはメンタルです。練習に行くときも『あ~、今日練習かぁ…』と思うより、『よし!練習だ!』って思った方が絶対にいい練習になる。それをするために例えば睡眠をできる限り摂るとか、自分の趣味や好きなことを絶対にするとか、好きなものを食べるとか。限られた時間の中でもそういうことは意識してやっています。具体的に言うと子供と遊ぶとか、嫁としゃべるとかYouTubeやNetflixで好きなもの観るとか、そういうことです。そうすることで自分のメンタルに気をつけています」
今季からXリーグが新たに設けた週間MVPで辻はディフェンス部門とスペシャルチーム部門をそれぞれ1回ずつ受賞した。第5節のオービックシーガルズ戦では3回のパスディフェンスが評価され、最終節のエレコム神戸ファイニーズ戦では2回のパントブロック(2つ目はリカバー&リターンタッチダウン)の活躍が認められた。ビッグプレーを連発する秘訣はあるのだろうか。
「パントブロックはコーチのサインが『当たった』んです。練習でポイントを掴みながら徹底することを意識したいたので、それを試合で活かせたんだと思います。あとはやっぱりメンタルですね。ビッグゲームになると萎縮するとか、対戦するレシーバーがすごいからちょっと意識するというのはよくあるんでしょうが、僕はお客さんに見られているという状況をプレーに活かしているんです。練習より試合のほうがもちろん楽しいですし、そういう気持ちがあるからいいプレーができるという部分はあると思う。結局のところ技術とか体力の部分は変わらない。でも、メンタルは外的環境とかによって変わる。心・技・体と言いますが、心の部分っていうのはやっぱり一番支えになるんです」
観客の声援をアドレナリンに変えてビッグプレーを生むという辻。その観客に喜んでもらうことがフットボールをやっていてよかったと思う瞬間なのだそうだ。
「ファンの皆さんが来てくれて、喜怒哀楽を表に出して応援してくれている姿とかを見るときは嬉しいです。一個人が周りに影響を与えるということは少ない。でもそれは人生の中で必要なこと。アメフトをしてるから、周りの人が喜んでくれる、人の話題に上る。その瞬間はフットボールをしていてよかったと思います」
辻篤志(つじあつし)
1986年10月30日、滋賀県出身。 大阪産業大学卒。
パナソニック インパルスDB、背番号27
174センチ、 88キロ
パナソニック インパルス
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