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【Road to Rice Bowl 】世界よ、これが日本のアメフトだ〈短期集中連載最終回〉

2022年01月05日(水) 11:00

アメリカンフットボール日本選手権プルデンシャル生命杯第75回ライスボウルは1月3日に東京ドームで行われ、富士通フロンティアーズが今季無敗だったパナソニック インパルスを24-18で破り、2年ぶりの日本一に輝いた。フロンティアーズのライスボウル優勝は初制覇の2014年シーズンから8シーズンで6度目となる。

6年ぶり5度目の日本一を目指したインパルスは2019年のジャパンエックスボウルに続き、社会人の王座決定戦でフロンティアーズに敗れた。

1984年に日本選手権という位置づけになり、昨年まで学生王者と社会人チャンピオンの間で争われてきたライスボウルは新たに社会人リーグが優勝を争う試合形式として生まれ変わった。

新方式で行われた試合は残り30秒を切るまで勝敗の行方が分からない、トップリーグの王座決定戦にふさわしい好ゲームとなった。試合中に開いた最大の点差はフロンティーズがリードした11点だったが、これは48分の試合時間の中でわずかに53秒しか続かなかった。残りの47分7秒の点差は6点以内。1回のプレーでタッチダウンが生まれる可能性のあるアメリカンフットボールではリードする側がいつ入れ替わってもおかしくない緊張感の中で展開したゲームでもあった。

両チームの実力が均衡しているが故のこの接戦だが、その中でもフロンティアーズが勝る部分がいくつかあった。例えばターンオーバーだ。フロンティアーズがターンオーバーなしの試合を展開したのに対し、インパルスは2回のターンオーバーを喫した。そのうち一つは第4クオーターで3点差を追うインパルスの攻撃で起きた。ゴール前でのエースランニングバック(RB)ミッチャルビクタージャモーが痛恨のファンブルロスト。試合の大きなターニングポイントだった。

そして、これ以上に大きな影響を与えたのが第4ダウンギャンブルの攻防だ。第4ダウンギャンブル成功率はインパルスが0%(2回の挑戦でいずれも失敗)だったのに対し、フロンティーズは67%(3回中2回成功)だった。

フロンティアーズの2回の成功のうち1回は第4クオーター最初のプレーだ。インパルスが18-14とリードしていた場面で、フロンティアーズはインパルス陣内21ヤードで第4ダウン6ヤードという状況にあった。

試合の残り時間が12分もあるということを考えればフィールドゴールで1点差に詰め寄るという選択肢もあった。しかし、ここでのフロンティアーズの決断はギャンブル(プレー)だった。コールされたのはパスだったが、クオーターバック(QB)高木翼はプレーが開始してパスを投げようとドロップバックした直後に自分の前に大きなスペースが空いている見つけた。高木は迷わずランに切り替えて7ヤードを走り、ファーストダウン更新に成功する。この3プレー後に高木はこの試合で2本目となる自らのランでタッチダウンを奪い、逆転に成功したのだった。

この後フロンティアーズはフィールドゴールで加点してリードを24-18と広げる。この時点で残り時間は3分20秒だった。ここからこの試合を左右する第4ダウンの場面が3回連続で起こった。

フロンティアーズのフィールドゴールの直後のインパルスのポゼッションはQBアンソニー・ロウレンスの被サックなどもあり自陣41ヤードで第4ダウン2ヤードの場面を迎える。ここでRBミッチェルにボールを託すが、カナダのプロリーグCFLから帰国して出場登録されたばかりのフロンティアーズのラインバッカー(LB)山岸明生がロスタックルして攻守交代。

フロンティアーズが攻撃をはじめたときの残り時間は2分10秒だった。ここからインパルスは最後のオフェンス機会に時間を残すことに望みを掛けてタイムアウトを使いながらがフロンティアーズオフェンスに対峙する。フロンティアーズは迷わずにXリーグのリーディングラッシャーのトラショーン・ニクソンにボールを持たせてランプレーを続けた。そして、1ヤードを残した第4ダウンでインパルスが意地を見せ、ニクソンのランをノーゲインに抑えて最後の攻撃権を手にしたのだ。

この時点で残り時間は1分45秒。すでにインパルスにタイムアウトは残っていなかった。自陣28ヤードからの攻撃でインパルスはロウレンスからワイドレシーバー(WR)木戸崇斗、ミッチェル、レオンシャ・フィールズへのパスなどでのフロンティアーズ陣内25ヤードまで進む。しかし、第4ダウン1ヤードでブレナン翼に向けてロウレンスが放ったパスはフロンティアーズのディフェンスバック(DB)樋田祥一のブレナンへのハードヒットが効果的に決まってインコンプリート。この瞬間にフロンティアーズの日本一奪回が事実上決まった。

第4ダウンをめぐる攻防は間違いなくこの試合を見応えあるものにした大きな要因のひとつだったが、数多く見られたビッグプレーもファンを魅了した。フロンティアーズDB藤田篤のインターセプトとファンブルリカバー、インパルス新人LB青根奨太のQBサック、フロンティアーズQB高木からWR松井理己への56ヤードロングパス、インパルスWRブレナンがパスキャッチ後に倒れ込みながらボールを持つ手を必死に伸ばしてギリギリで獲得したファーストダウン更新。

どれもが普段のたゆみない練習と努力で培われた高度な技術の結果として生まれ、勝利にこだわる強い意志があってこそ実現するプレーである。そして、これが日本の誇るアメリカンフットボールのレベルであり、新しいライスボウルの歴史を刻む社会人リーグの矜持でもある。