東京ガスの新星QB谷口雄仁、本格デビュー戦で示した「勝てるQB」の片鱗
2025年09月13日(土) 13:00【パスを投げる東京ガスクリエイターズQB谷口雄仁 ©X LEAGUE】
3日に横浜スタジアムで行われたX1 Super開幕カードの東京ガスクリエイターズ対IBM BIG BLUE戦。社会人1年目の東京ガスQB谷口雄仁が、本格デビュー戦で存在感を放った。パスは19回中13回成功、170ヤード、1タッチダウン。数字以上に印象的だったのは、彼自身がこだわる「勝てるQB」を体現するプレーの数々だった。
谷口は法政大学時代に甲子園ボウルに3度出場し、大学屈指の実績を残して社会人の舞台に飛び込んだ。だが本人は試合直後、むしろ課題を口にする。「正直もっと投げたかったです。ロングパスに精度を欠いた部分があったので、そこは課題だと思っています」。61ヤードのロングパスでタッチダウン目前まで迫った場面では「恥ずかしいんですけど、タッチダウンだと思ってベンチに戻ってしまって、チームメイトを混乱させました」と照れ笑いを浮かべる初々しい一面も見せた。
パス成功率68%という数字には一定の手応えを示しつつも、「もう少し決められるパスがあった」とストイックに振り返る。学生時代との違いについては「週6回の練習が当たり前だった大学と違って、クラブチームの社会人は週2回。前日練習もない試合は初めてで、そこに慣れる必要を感じました」と語り、環境の違いを成長材料に変えようとしている。
【ボールがスナップされる直前の谷口 ©X LEAGUE】
谷口のプレースタイルは、単なる派手なロングパスにとどまらない。4年時の甲子園ボウルで見せたショートパス主体の戦い方の延長線上に、いまの姿がある。「QBは点を取りたい気持ちが強いけど、自分の役割はゲームメイク。シチュエーションに応じてやるべきことを選択するようになった」。実際この試合でも、ダブルリバースからのパスを投げ捨てたり、ネイキッドで無理せずサックを選んだりと、細かい判断で流れをつかんだ。
さらに彼には、フラッグフットボール日本代表というもう一つの顔がある。「フラッグではアメフトでは交わらない日本のトッププレイヤーから刺激を受けています。フットボールに触れる時間が増え、自分の生活やチームに落とし込むことでスタンダードを上げられている」と語る。タックルフットボールとフラッグフットボールという“二刀流”の経験が、冷静な判断力と視野の広さにつながっているのだろう。
【RB星野凌太朗(左・背番号30)にボールをハンドオフする谷口 ©X LEAGUE】
東京ガスの板井征人ヘッドコーチは谷口について「言われたことをやるだけのQBではなく、自由度を持ってチームを勝たせられるQBになってほしい」と期待を寄せる。本人も「勝たせるQBになることにこだわりたい。自身のスタッツが悪くても、結果としてチームが勝てばQBの勝ちだと思う。どんな苦しいシチュエーションでも谷口ならやってくれると思われる存在になりたい」と力強く語った。
将来的にはフラッグで五輪出場、さらには金メダルという大きな目標も掲げる谷口。その第一歩となるIBM戦で示したのは、記録よりも記憶に残る「勝てるQB」の資質だった。東京ガスにとっても、新時代を切り拓く司令塔が誕生した瞬間と言える。