王朝の再起を告げる指揮官の涙―富士通が宿敵にリベンジし、準決勝へ
2025年12月09日(火) 14:00
【6キャッチ、1TDパスレセプションをマークした富士通WR松井理己(左) ©X LEAGUE】
ライスボウルトーナメントクオーターファイナル(1回戦)のノジマ相模原ライズ戦、かつての王朝・富士通がようやく「自分たちのフットボール」で息を吹き返した。
今シーズンは第2節でノジマ相模原に敗戦を喫し、最終節ではSEKISUIチャレンジャーズにも競り負けた。常勝のイメージとは裏腹に、このチームは今季、迷いと自信の揺らぎの中で戦ってきた。その積み重ねが、山本洋ヘッドコーチの涙となって滲んだ。
試合後のハドル―普段は表に出さない感情を見せた理由は、勝利そのものより「チームがテーマを体現した」ことへの安堵にあったという。
「絶対勝つぞ、と言い続けた。その思いを、選手たちがしっかり示してくれたから、思わず泣いてしまいました」。
【富士通フロンティアーズ山本洋HC ©X LEAGUE】
春にも敗れた相手に対して、意地と準備をぶつけた先に勝利があった。それは「かつての富士通なら当然」と思われがちな一戦だったが、今の彼らにとっては違う。積み上げが必要なチーム、変化の途上にあるチームがようやく手にした、自分たちへの証明でもあった。
攻撃では、決めるべき選手が決めた。サマジー・グラント、松井理己、木村和喜―そして彼らに落ち着いて配球したQB高木翼。その機能性は過去の王者の姿を思わせるものだった。
一方で山本HCが強調したのは、まだ「完了形」ではないという現実だ。ディフェンスプランはハマった。前回、QBカート・パランデックには100ヤード以上走られたが、今回は50ヤード以下に抑え、プレッシャーをかけ続けた。しかし、メンバーが入れ替わった瞬間に綻ぶ場面も残ったという。「そこをどう変えていくかが課題」と指揮官は言う。勝ち切った裏側には、まだ足りない部分が明確に残っている。
富士通はもう、かつての盤石な戦力の塊ではない。
「昔のチームではないし、いろんな選手が出るようになっている。まだ積み上げと成長が必要なチーム」と語る山本HCの言葉には、王朝が再び形をつくる過程が凝縮されている。
セミファイナルの相手はパナソニック インパルス。昨シーズンのライスボウルで敗れた強敵だ。「正直、力差はある」と認めながらも、「そこだけで勝負をするわけじゃない」と言い切る。フィジカル勝負になる以上、まずはコンディショニング。そして、自分たちのフットボールを突き詰めること―それが指揮官の掲げたテーマだ。
涙は、勝利の美談ではなく「まだ成長途上であること」の裏返しだった。かつての富士通とは違う。だからこそ、勝てた試合の意味は深い。その手応えを証明する舞台は、もうすぐやって来る。
