ラスト1秒で決勝FGのディアーズ、劇的勝利のキーワードは「信頼」
2022年10月13日(木) 14:00
胎内ディアーズが、第3節のオール三菱ライオンズ戦に勝利してX1 Super昇格後初勝利を挙げた。最後の1秒まで試合の行方が分からないしびれる展開だったが、チーム内の信頼が劇的な結末を呼び込んだ。
「オフェンスとしては前半の出来がよくなくて、自分自身もゴール前でインターセプトされたりしたのでなかなか厳しい展開ではありましたが、最後きっちりプレーに集中して勝ち切れたことはこのチームにとって大きな一歩です」とクオーターバック（QB）加藤翔平（上段写真）が激闘を振り返る。
34歳の司令塔は、今季3年ぶりに現役復帰。最後に公式戦で勝利したのは2019年X1 Area秋季リーグ戦の第5節ブルザイズ東京（当時、現品川CC ブルザイズ）戦以来でおよそ3年ぶりだ。
加藤が現役復帰を決めた理由は、長年苦楽を共にしたワイドレシーバー（WR）前田直輝（中段写真）の存在が大きかった。
「ケガと仕事の都合で1回離れたけど、その間にチームメイトの前田直輝選手が大きなケガをしてそこから1年で復活した姿を見て彼と一緒にやりたいと思ったし、まだまだできることがあると思って復帰させてもらいました」。
その盟友との信頼関係がラスト59秒からのシリーズを完遂させた。ディアーズは残り1分を切って1点のビハインド。しかし、加藤に焦りの色は微塵も感じられず、冷静なクオーターバッキングに努めた。
「展開的にタッチダウンを取ったら向こうも2ポイントを狙うと思っていました。逆転されてからはそのイメージを自分の中で持っていました。その場合はフィールドゴールなのでまずは（フィールドゴール）レンジに入れること。タイムアウトもまだ残っていたので、自分的にはそんなに難しいオフェンスではないとイメージしていました」。
「自分の売りは丁寧に決めるべきパスを決めていくこと」と加藤自らが言うように、自陣36ヤードからスタートしたファイナルドライブでまずWR前田へ7ヤードパスをヒット。そして自身のランを挟んだ後に、再び前田へ19ヤードパスを成功させた。
これで加藤が目指していたフィールドゴール圏内に突入。前田への2本目のはパスは、ややターンボール気味だったが、前田がボールへの執念を見せて見事キャッチした。
「少し僕のコントロールミスであるけど、うまくキャッチしてくれた。安心というかやってくれたなという感じです。2年離れたと言ってもそれまで9年くらい一緒にやっていたチームメイトなので、戻って来た時から信頼関係はずっとあります」と、かつて日本代表でもともに戦った2歳上の先輩レシーバーとの絆を明かした。
ディアーズにとってオール三菱は、春季交流戦で42対14と快勝していた相手だった。それだけに、前節の試合後にはチーム内に「勝てるのではないか」という雰囲気が蔓延していたという。
その嫌なムードを断ち切ったのが、高野元秀ヘッドコーチ（HC）だ。
「（オール三菱には）春のゲームで勝っているし、前節ではパナソニック インパルスに大敗していますけど、試合後に次は勝てると思っている雰囲気がなんとなくチームにあったので、そうではないということを植え付けていくことは難しかった」。
試合は高野HCの予想通りの展開となり、選手も指揮官に応えた。高野HCも自軍の選手たちの奮闘には目を細めていた。
「今日は選手たちがどういう気持ちで試合に入るのか重要だと思っていたので、良い形で入れた。最後のワンプレーまで勝負が分からないゲームになるといってその通りになって、そこでも集中力を切らさずにフットボールができた。勝敗はもちろん、選手たちがその通りにプレーしてくれたことに感動していますし、感謝しています」。
決勝フィールドゴール（下段写真）につなげた最終ドライブについても、「タイムアウトが２つあって、残り時間も約1分あったので、普段練習している形でいいと思った。タイムアウトは僕がコントロールするから、いつも通りフットボールをやるように言って送り出しました」とコメント。選手はプレーに集中して、コーチ陣が時間を管理する。プレイヤーと首脳陣の信頼関係が成り立っているからこそできる芸当だ。
うれしい今季初勝利を飾ったディアーズは、これで1勝2敗。各ディビジョンの上位4位まで進むことができるポストシーズン進出の可能性が十分に残っている。高野HCは、「まだまだ上を目指せる。若いチームなので、経験をして強くなっていく。今日こういう経験ができたのは大きかった」と、この日の勝利が1勝以上の価値があったと評する。残り2試合は、ノジマ相模原ライズにアサヒビールシルバースターと楽ではない相手が続く。それでも、タフなゲームを乗り越えて信頼感が深まったディアーズが、今年からチーム名の冠に付した新潟県胎内市へさらなる良い報告ができるか期待したい。
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